ミロスワフ・バウカ
Mirosław Bałka, Audi HBE F144, 2008, video, 40 s, coll. Museum of Contemporary Art, Krakow
INTRODUCTION
AAA+発煙信号
空に向けて立ち上る煙、発煙信号であり、トラックの運転手は人気の子守歌「AAA、二匹の子猫ちゃん」を再現しようとしている。このキッチュな子守歌のイメージは、《アウディHBEF144》や《底》と共に配されて、恐ろしさと凄みを帯びる。
アウディ HBE F145
1980年代末より生と死や身体性と記憶をテーマに国際的に活躍を続けるバウカの作品は、記憶彫刻と呼ばれることもあり、2000年代に入ると映像を駆使した象徴性の高い作品も多く見られるようになった。《アウディHBEF144》は、ローマ法王ベネディクト16世がアウシュビッツ絶滅収容所を訪れたときのテレビ放送のモニターを撮影した20枚の写真からなるスライドショーである。独車のアウディが、スーツを着た物々しい警備員たちに囲まれて、収容所ブロックの間をゆっくりと進む。法王は車から降りず、姿を見せない―ホロコーストの犠牲者たちを悼む場所で、ドイツ人法王の感じているかもしれない恐怖や厳粛さが伝わってくるようだ。
底
床に投影されたナチス強制収容所のシャワー室(という名の、毒ガスが投入され何万人もの殺人が行われた現場)である。虐殺が行われた後、遺体は集められてガス室で焼かれた。その煙は昼夜立ち上り続けた・・あたかもホロコーストの現場に立ち会っているような気持ちにさせられ、暗闇、恐怖、殺戮の歴史的記憶が新たな様相を帯びつつ蘇り、現代を生きる私たちに鋭く迫る。
PROFILE
1958年ワルシャワ(ポーランド)生まれ。オトフォツク(ポーランド)とオリーヴァ(スペイン)在住。彫刻、映像や素描を手掛ける。1985年ワルシャワ美術アカデミー卒業。2011年よりワルシャワ美術アカデミーメディアアート科で空間行為スタジオ運営。1986年から1989年までミロスワフ・フィロニクとマレク・キェフスキと共に芸術集団Consciousness Neue Bieremiennost設立。1991年クレーフェルト美術館ミース・デル・ファン・デル・ローエ賞受賞。ベルリン芸術アカデミーのメンバー。ヴェネチア・ビエンナーレ (1990, 2003, 2005, 2013; 1993年ポーランド館)、ドクメンタ IX (1992), シドニービエンナーレ(1992, 2006)、カーネギーインターナショナル (1995)、サンパウロビエンナーレ(1998)、リヴァプール・ビエンナーレ (1999)、サンタフェ・ビエンナーレ (2006)など多くの国内外の展示に参加。2009年テート・モダンターバインホールにて個展「How It Is」開催。